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東京地方裁判所 昭和43年(む)1488号 決定 1968年11月22日

決定

申立人 国学院大学映画研究会代表者

肥田進

阿部博幸に対する騒擾、建造物侵入、威力業務妨害、公務執行妨害被疑事件について、東京簡易裁判所裁判官磯部喬が昭和四三年一一月一九日付でした東京都渋谷区東四の一〇の二八国学院大学若木会館内映画研究会室に関する捜索差押許可の裁判、司法警察員佐藤英秀が同月二〇日右許可状にもとづき同室で行なつた差押処分に対して申立人代理人弁護士後藤孝典他四名からその各取消を求める等の準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

司法警察員佐藤英秀が昭和四三年一一月二〇日東京都渋谷区東四の一〇の二八国学院大学若木会館内映画研究室でした別紙差押目録記載の各物件に対する差押処分を取消す。

申立人等のその余の請求を棄却する。

理由

一本件準抗告申立の趣旨および理由は申立人代理人弁護士後藤孝典他四名作成の昭和四三年一一月二一日付の「準抗告の申立」と題する書面、ならびに同後藤孝典他三名作成の同日付「補正並に追完書」と題する書面各記載のとおりであるから、これを引用する。

二一件記録によると、昭和四三年一一月一九月司法警察員佐藤英秀は阿部博幸に対する頭書被疑事件に関し頭書の場所において捜索、差押を行なうため東京簡易裁判所裁判官に対し許可状の発布を求めたところ、同日同裁判所裁判官磯部喬は右請求に応じて許可状を発布し、同月二〇日司法警察員佐藤英秀は前記場所において捜索を行なつた結果、別紙差押目録記載の各物件を差押えたことが認められる。

三また、関係記録によれば、被疑者阿部博幸が頭書被疑事実を犯したとの嫌疑の存在はこれを認めることができる。

四ところで申立人らは、まず第一に前記裁判官のなした捜索差押許可の裁判についてその取消を求めているのであるが、本件の場合は、すでに右許可の裁判にもとづく差押処分が完了しているのであるから、申立人らは、右許可の裁判自体の取消を求める利益を有しておらず、ただ、その具体的な差押処分の取消を求め得るにすぎないものと解すべきである。

五そこで、別表記載の個々の差押物件について、各差押処分の当否について考える。

まず、差押目録の番号一、九、一〇の一ないし五、一一の一二、一四、一五についてはいずれも本件被疑事実との関連性を認めることは困難であり、また五、六、七、八、一二の一ないし六、一三の各録音テープは、本件許可状に差押を許可する物件としての記載のない物件であり、二の一、二の二および三は本件被疑事実とは異る一〇月八日の事件についてのフィルムであつて一〇月二一日の本件被疑事実とは関連性がないものと考えられ、二の三については失敗作であつて何を撮影したものかは不明であり、従つて本件被疑事実との関連性は認められず、いずれも差押は許されないものというべきである。

次いで、四および一一の三の一六ミリフィルムについて考えると、これらの各フィルムは、一〇月二一日の多数学生による本件事件の状況を撮影したものであり、共謀共同正犯として罪責を問われる被疑者について、その被疑事実の立証に供されるものであるから、被疑事実と一六ミリフィルムの関連性を認めることができる。そして、第三者の所有する物についても、捜査の必要性が充分に認められる場合には、その押収が可能であると解するが(刑訴法一〇五条などは制限列挙と解する)、押収される第三者のもつ利益との比較衡量が必要といわねばならない。そして、これを本件についてみるに、右フィルムは、本件被疑者の具体的な犯行状況を内容とするものではなく、他の共同者の行為を内容とするもので、その罪責に対する影響、被疑者の役割りの軽重の判定、その他被疑者の罪を立証すると思われる作用は極めて低いと思われ、本件被疑者の被疑事実との関係で考える限り、第三者が適法に撮影し所持している右フィルムを押収する必要性はさほど強いものとは言えず、右フィルムを押収されることの、その所持者たる映画研究会に与える不利益(その一つとして、彼らはこれを期日の迫つた学園祭に上映する目的を有すること等)とを比較衡量してみた場合には、右フィルムの強制的な差押までは許されないものと解するのが相当である。

六以上のとおりであつて、別紙差押目録記載の各物件の差押処分はいずれも失当であつて、この点に関する準抗告の申立は理由があるので刑事訴訟法四三二条、四二六条二項により原処分を取り消し、その条の申立は不適法であるから同法四三二条、四二六条一項によりその申立を棄却することとし、主文のとおり決定する。(目黒太郎 片岡正彦 涌井紀夫)

<差押目録省略>

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